養老天命反転地について、簡単に

 まず驚いたのは、写真で見るより予想以上に高低差があるということだ。『楕円形のフィールド』の端から底の方を見ると、底にいる人々が驚くほど小さく見える。また、斜面があまりにも急なため、『楕円形のフィールド』上で行きたい場所を見つけても、ルートを考えて向かわないと危険な目に遭うか戻ってこれなくなりそうだと思った。また、資料写真で見ているより樹木が大きく成長しており、想像と違うビジュアルが私を戸惑わせた。平衡感覚だけでなく、距離感までもが狂わされる。
 実際に窪地の中へ足を踏み入れてみると、確かに平坦な地面などは存在せず、地平線も高い壁によって隠されている。常に足元に注意し、時には手を使いながら、平衡感覚を保とうとする身体を感じる。
 『楕円形のフィールド』の中には『極限で似るものの家』を構成する要素が分割され散りばめられている。『極限で似るものの家』は『楕円形のフィールド』に辿り着くまでにあるので、鑑賞者はそこでの経験を元にしながら『楕円形のフィールド』に向かうことになる。デジャヴュを感じる意識と、転げ落ちないようにバランスを保つ身体。知覚がフル回転している。あらゆる出来事が身体の内部で起こっているのだ。後から、この時たくさんの「知覚の降り立つ場」が生まれていることに気付いた。
 ひとしきり歩き回ったあとに「養老天命反転地オフィス」に入った。ここもまた斜面だらけの内部だった。トイレの中でさえも。